●担任が考えるべきこと
(1)児童・生徒の状況及び変化の把握
いじめの初期で発見し、その段階で「いじめは許さない」という態度で対処し、観衆(C)や傍観者(D)がいじめる子(B)にならないようにする。
(2)児童・生徒との信頼関係
(1)の指導が成立するためには、信頼して情報を寄せたり安心して相談を持ちかけられる関係が成立している必要がある。その前提条件として、教科指導など教師としての専門的能力や、人間的な面での尊敬の念が必要とされる。
(3)いじめを発見した場合
①いじめられた子の話しを聞き、その子の立場に立ち、慎重に対処する。
(よくない事例)生徒AとBのいじめ的関係について生徒Cが先生に相談した時、「注意したから大丈夫だ」というだけで終わる。もっと時間をかけて生徒と話し合ってほしい。(豊川市の中学3年生)
②「絶対にいじめは許さない」という態度で臨む
学級だけでなく、学校全体で厳格な態度で対処する。いじめグループ(B)に対しては、それぞれの子どもを、時に個別に、時にグループとして面談し、面談する。この時、担任だけでなく、校長や主だった先生も同席し、両親を含め、学校が断固とした処置をとることを態度で示す。もし、いじめを教師に知らせたことで報復があるような事態となれば、停学や退学などの処罰があることを示すことが再発防止につながる。金品の恐喝や暴行の程度がひどい場合は、警察に知らせ、法的な処置を受けさせる。
③学校と家庭が緊密な連絡を取り、協力して問題の解決に当たる
④いじめる側の言い分を聞く
⑤SOS信号がでている場合、いじめグループ(B)といじめられっ子(A)を隔離し保護する
いじめを受けている子どもの話しを無条件に受け入れて聴く。コメントや支持的な付け加えをしない。励まさない。非難しない。感情レベルでの共感的理解を重視する。自殺を決意させるほどの心理的危機は比較的短い期間しか続かないと言われる。早くて4~5日、遅くて2~3カ月で消えることが分かっている。心理的危機を先延ばしにする。身近な人が自殺することで、残された人は心理的負担を負う。一人の人間が死ぬと平均7~8人の人が嘆き悲しむことが分かっており、何人かが後追い自殺をする。
●いじめを解決した事例
渡邊(1996)は文献の整理から、つぎのことを述べている 。
(1)いじめをいかに把握するか
①複数の教師が手分けして事情を聴く(情報の出所は隠す、うわさの域を出ないという形にする、教師がたまたま見聞きしたという形にする)
②教師が実際に目で確認する
③クラス全員にアンケートを取る
(2)いじめられている子にどうかかわるべきか
いじめられている子が被害を言わない理由
みっともない、恥ずかしい、仕返しが怖い、親に心配をかけたくない、教師に行っても解決しない、いじめられている事実を受け入れたくない、孤立するよりまし、話すことによりつらい経験を追体験しなければならない。
①いじめられている子を即時に保護する。いじめている子に会わないようにする。
②つらさを十分に聴いて認め、心から理解を示す。
③「お前にも欠点がある」と言わない。
④「人生ではもっとつらいことがある。これくらいでくじけるな。強くなれ。」と言わない。
⑤孤立させない。
⑥教師が折に触れ声をかける
⑦いじめの記録を書かせる。証拠の品を残す。
⑧別室での個別授業を保障する。不登校になった場合は訪問授業をして学習権を保障する。
(3)いじめている子にはどうかかわるべきか
①よわいものいじめは許されないという認識、態度で臨む。いじめたつもりがなくても相手はいじめと感じていること、仕返しは卑怯であることを含めて。
②一方的な説教にしない。問題児童というレッテルを貼らない。いじめをやりたくなる背景、やめられないつらさに目を向ける。内省の機会を与える。良いところを発見し、頑張りどころを見出し、将来への希望が持てるようにする。追いつめず、逃げ道を残す。
(割愛)
⑤「どうして?」は非難されている感情を引き起こすので、避ける。
⑥特別指導プログラムを個別、集団で組む。
⑦警察、指導相談書、家庭裁判所の協力を仰ぐ。
(4)親との関わり
①いじめをなくすために徹底して戦う姿勢を伝える。実態理解の目的でアンケート実施もよい。
②親との信頼関係を作る。冷静に親の話しを聴き、立場を理解する。教師は「一生懸命やっている」「何度も指導している」など自分の正当化をしない。いじめられている保護者に対して「騒ぎすぎ」「いじめられる方にも問題がある」、いじめている保護者に対して「家でちゃんと教育しているのか」など責めない。話合いは継続して行う。
③学校、教師の考えや姿勢を表明する。現在どう取り組んでいるか、今後どうしていくのかを具体的に述べる。
④こどもを全体的に理解するために、家庭での様子を聴く。学校での様子を伝える。
⑤家庭訪問をする。
⑥緊急父母会、PTA会合を開く。欠席者にも議事録や情報を伝える。
いじめられている子の親に対して:緊急時であることを認識していないような発言をしない、謙虚に謝罪する勇気、学校だけで難しい場合は他の機関の紹介
いじめている子の親に対して:単純に子どもを悪者扱いしない、補償や弁償については合理的に解決できるよう取り計らう、家庭での指導を約束し実行されているかを確認する、あらかじめ個人面談を行ったうえで集団面談を行う
直接関わっていない子の親に対して:当事者だけでなくオープンにすることが効果的、傍観者という立場はいじめていることだという考えを貫く、日記、感想文、手記などを材料に話合いを繰り返す、いじめについて共同で学習する、ルールを作る、学校全体での話合いに勧める
(5)教師間の連携
①複数の教師で手分けして実態の把握をする
②教師用のいじめ調査を行う。
③対策委員会の設置
④学年会での情報交換
⑤学年全体で個別指導
安易に「自分のクラスにはいじめはない」と言わない。いじめはある、という姿勢で考える。
●いじめを解決した事例をもとに、次のことを考える。
・いじめについての情報をどう把握し、確認したか
・いじめられている子に対してどのようにかかわったか
・いじめている子に対してどのようにかかわったか
・双方の親に対してはどのようにかかわったか
・いじめられている子の親にはどのようにかかわったか
・いじめている子の親に対してはどのようにかかわったか
・その他の子どもに対してはどのようにかかわったか
・教師の連携、自分の姿勢の見直しはどうだったか
・子どもの年齢によって教師の関わりかたに違いがあるか
参考)
酒井 亮爾,1995, 「学校におけるいじめとその対処法に関する一考察」『人間文化 : 愛知学院大学人間文化研究所紀要』 10, pp.230-260
渡邉孝憲,1996,「「いじめ」を解決した事例にみる教師の効果的なかかわりかたの分析」『聖徳大学研究紀要 人文学部』第7号,pp.47-55
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