学校選択制度について
概要
80年代の米英のサッチャー政権、レーガン政権の元で進められた教育水準の向上を目的とする公立学校改革が始まり、財政悪化への対応と行政・公共サービスの効率化・質改善を目的として市場的競争原理が導入された。
定義
狭義では、義務教育段階で使用される。義務教育段階では、自治体内に複数の学校がある場合、教育委員会が就学予定者の保護者に対し、就学すべき学校を指定する仕組みが設けられている。その際に、就学予定者の保護者から、あらかじめ子どもを就学させる希望校を聴取し、その申し立てを尊重して就学指定する仕組みが導入されるようになり、それを学校選択制と呼称している。就学希望を表明する方式には、自由選択制、ブロック選択制、隣接校選択制などがある。(『教育学用語辞典』学文社2006年)
ディベートテーマ:小中学校で学校選択制度を導入すべきである。
肯定
【現在のシステムの問題】日本の公立学校教育(制度)は、「中央集権的な教育行政」や平等主義・官僚主義・専門職手技によって管理・運営されてきたために画一性・硬直性・閉鎖性といった弊害を抱えており、多様化する子ども・保護者のニーズ・要望に適切に対応することができず、しかも、個々の学校の「創造的な教育実践」や「改革の努力」を妨げている。
【問題を解決するシステム】そうした公立学校の画一性・硬直性・閉鎖性を打破し、各学校の想像的実践や改革努力を誘発・促進する、その触媒・メカニズムとして学校選択性が必要である。
【モデルの類型】学校選択制には、保護者を公教育の消費者とみなし、学校間の競争と市場メカニズムによって公立学校の改善・活性化が図られるとする市場的競争モデルと、教職員・教育行政当局・保護者・子ども・地域住民といった「様々な関係者の力と働きを再統合する場として学校を再構築」しようとする抑制・均衡モデルがあり、後者が必要である。
【先行事例】ニューヨーク市で推進されたスモール・スクール(小さな規模、自発的に参加する教職員のチームワーク、実質的な学校自治、発案者がリーダーとなり教職員を募ってチームをつくり、保護者は普通の公立学校に行くかスモール・スクールに行くかを選択できる)の創造的な実験による公立学校の革新が必要である。
否定
【序列化】学校の序列化を招き、それは学校の人気(志望倍率)やその人気を左右する特定要素(例えばテスト成績・進学実績や逸脱的問題のない落ち着いた学校かどうか)といった一元的尺度や学校の立地環境といった、学校がコントロールできない要因に基づきがちとなる。それは、学校教育の包括性・総合性が低下し歪むというモラル・ハザードを起こし、学校の格差化と閉鎖性・社会的排除性を強める。
【想定モデル】市場的競争モデルと抑制・均衡モデルは理論的には区分可能であっても、改革・施策を主導する各種審議会や政治勢力のプランは市場的競争モデルを想定しており、抑制・均衡モデルの実現可能性は乏しい。
【学習指導要領】「公共の形成」を課題とする義務教育は学習指導要領に基づき共通基礎教育を提供しているため、選択に値するほどの違いはありえない。また、公立学校制度は学校間に違いがないことを建前とするため、多様な選択肢といっても、それは多様性ではなく格差となる。
【利点の根拠のなさ】教育の自由化論者は、学校選択を自由にすれば学校教育が改善され、教育荒廃がなくなり、受験競争が緩和され、個性や創造性が育成され、財政支出が削減され、家計負担が軽減され、教育の機会均等化に役立つというが、それらの利点には実現に制約があり、むしろ家計負担の増大と低所得層の教育機会の劣化、選択機会の縮小・格差を招く。
【市場モデルが機能しない理由】選択制になれば公立学校も生徒集めに努力するから、どの学校も良くなるというが、その主張は、保護者・子どもは「よりよい教育(サービス)」(学校・教育の実質的価値)を求めて学校選びをすることを前提としている。しかし、その実質的価値は選択時点・入学時点では未完の価値(未完成品)でしかなく、しかも、入学した子ども(や保護者)の資質・能力や学業・学校への関わり方などに左右される。この2点で、学校という商品の市場は一般の商品市場と大きく異なる。
【多様な選択肢の実態】義務教育段階の教育は、上級段階の学校への進学準備という構造的特徴を持っているから、教育内容面での多様化・差異化には限界がある。したがって、多様な選択肢を提供するといっても、それは格差化・序列化となる。
【学校選択制度以外の方法】学校選択制を導入しなくても、学校ボランティア制度、学校評議員制度、学校運営協議会制度など、「開かれた学校づくり」政策として促進・奨励されており、積極的な改善努力を推進する学校・地域も増えている。
(上記の肯定/否定の意見は、藤田英典「第Ⅲ部 学校選択制・民営化と教育機会 解説」藤田英典・大桃俊行編著『リーディングス 日本の教育と社会11 学校改革』pp.199-207、2010年.から引用しています。)
参考データ:嶺井正也・中川登志男著『学校選択と教育バウチャー 教育格差と公立小・中学校の行方』八月書館、2007年
東京都、埼玉県、広島県での実施数の多さが目立つ。10~50万人程度の市での導入可能性が高い(p.9)。/京都内の学校選択制度を導入した自治体の2つの中学校を2002年~2005年で比較すると、人気校には所得階層の高い家庭の子どもの学区外からの流入が多く、不人気校に残るのは所得階層の高くない家庭の子どもが多い。(p.104)
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