火曜日, 3月 04, 2014

ゆとり教育について

目的:ゆとり教育がどのような教育政策を指すのか、そうした教育政策がどのような経緯で成立したのか、どのような点が批判されているのかを理解した上で、自身の教育体験を振り返り、自身の教育観を再構成する。

導入:
「ゆとり」教育のイメージについて
「ゆとり」教育について知っていることを教えてください。→板書
 台形の面積の求め方を知っていますか。

1.ゆとり教育とはどのような教育であるか
「ゆとり教育」という言葉は教育行政的にはない 。小学校では1980-2010年度、中学校では1981-2011年度、高校では1982-2014年度(数学・理科は2013年度まで)まで施行される教育。主として1992年度から施行された新学力観 に基づく教育を指す。本来の理念は、詰め込み式の教育を改め、地域や家庭の中で人間力を高めていこうという教育政策。源流は戦後教育の改革議論が本格化した1980年代にある 。

例えば、少子高齢化が進むとどのような変化が生じる?
校内暴力はなぜ生じた?
なぜ詰め込み教育が批判された?

学習指導要領の変遷(志水2003,p.154)
第一次(1951) 教育の生活化(経験主義の問題解決学習)
第二次(1958) 教育の系統化(系統学習への転換、基礎学力の充実)
第三次(1968) 教育の科学化(科学的な概念と能力の育成)
第四次(1977) 教育の人間化(学校生活におけるゆとりと充実)
第五次(1989) 教育の個性化(新しい学力観にもとづく個性の重視)
第六次(1998) 教育の総合化(特色ある学校づくり、総合的な学習の時間)

「ゆとり」はいつから言われていた?
学習指導要領はどの程度の頻度で変わっている?
カリキュラム改革の振り子はどのように揺れる?

表 教育政策の流れに自分の年を書き込んでみよう
あなた 出来事
1987年 別世界 中曽根内閣 臨時教育審議会最終答申
1992年 「生活科」 が小学校低学年で導入、週5日制試行実施
1993年 0歳 中学校で家庭科の授業が男女必修、業者テスト廃止
1994年 1歳 高校で普通科・職業学科に総合学科 が加わる
1996年 3歳 中央教育審議会
2002年 9歳 「画一から個別へ」の現在の教育の本格実施
「生きる力」 、総合的な学習の時間、週5日制完全実施。
1月に「学びのすすめ」が発表される 。
2003年 10歳 学力低下論争 の根拠となるPISA結果
2005年 中山文科相が中央教育審議会に学習指導要領の見直しを指示
2006年 13歳 中学校 安部内閣(第一期) 教育再生会議
2007年 14歳 全国一斉学力調査実施 、政府の教育再生会議 がゆとり教育の見直しを提唱
2008年 学習指導要領の改正
2010年 学力上昇を示すPISA2009の結果が発表される。

2003年のPISAを受けた日本の15歳は、総合学習を何年勉強した?

2.ゆとり教育に対する批判
画一的主義を改める必要がある
「ゆとり教育」は学力格差・学習意欲格差を生む 。
基礎学力がついていない子どもには効果がない
(擁護派)始まったばかりで評価するのは時期尚早。/学力低下は錯覚。/PISAの順位の変動で大騒ぎすることが問題。

3.現在の学習指導要領
小学校は2011年度、中学校は2012年度、高校は2013年度から施行。授業日数及び算数・数学、理科、外国語の授業時間数増加。全体で3~6%、理数系で15%ほど増加 。

4.あなたの意見は?他の人の意見は?
あなたは学習意欲が高いと思いますか?問題解決力がついたと思いますか?
単純に授業時間を画一的に増やして詰め込み教育の時代に戻せばよいのか。
あなたの支持する教育は、どのような社会や国になることが目指されているのか 。

参考文献
苅谷剛彦,2001,『階層化に本と教育危機-不平等再生産から意欲格差社会へ』有信堂。
苅谷剛彦,2008,『教育再生の迷走』筑摩書房。
櫻井よしこ・宮川俊彦,2005,『ゆとり教育が日本を滅ぼす』ワック出版
志水宏吉,2003,「カリキュラムと学力-学力低下論からカリキュラムづくりへ」苅谷剛彦・志水宏吉編『学校臨床社会学-「教育問題」をどう考えるか』放送大学教育振興会,pp.152-169。
寺脇研,2007,「それでもゆとり教育は間違っていない」扶桑社。
ミニッツシート:①<ゆとり教育>に対する自分の体験と意見 ②<ゆとり教育>に対する他の人の体験と意見

注記
  1)1996年中央教育審議会答申「21世紀を展望したわが国の教育の在り方について」の中で、子ども、学校、社会全体に「ゆとりが重要だ」という言葉が使われ、メディアにより広まった。
  2)臨時教育審議会答申で提起され、1989年改定の学習指導要領に採用された学力観。旧来の学力観が知識や技能を中心にしていたのに対し、学習過程や変化への対応力の育成を重視することから、体験的な学習や問題解決能力の育成、関心・意欲・態度を重視する評価、指導から支援の教師役割の変化などが起こった。
  3)1984年9月首相直属の臨時教育審議会が設置され、1987年8月までに2000時間以上の会議、4度にわたる答申を提出した。その最終答申で、「少子高齢化」「国際化」「科学技術の高度化」「情報化」の4つのキーワードで未来予測し、それぞれに対応する教育体制への改革が提言された。
  4)平均寿命が60歳から80歳まで延びたことで生涯学習という概念が生まれる。また、一人の子どもが非常に恵まれた時代になる。
  5)1980年代に公立中学校で発生した生徒による暴力問題。81年から83年がピークで、毎年2千件あまりを記録し、そのうち9割が中学生によるものだった。
 6) 競争相手が多い時代は他人に勝つことが将来の幸福を保証するため、特訓が必要とされた。しかし、競争相手が少なくなることで、自分自身の関心によって学ぶ意欲が重視された。そこで、個々にあわせた教育や、教科を横断した総合的な学びが導入された。1970年代の中学校の総授業時間数は3535コマ、2007年には2940コマと約600コマ減っている。
  7)進歩主義や子ども中心主義、見えない教育方法などを「態度重視」の極とし、その反対に伝統的教育や見える教育方法などの「知識重視」の極を取ると、戦後改革(第一次)では「態度主義」に触れたが、高度経済成長期(第二、第三次)で「知識重視」に触れ、80年代以降の改革(第4,5,6次)で「態度重視」の極に触れている。次はどちらに触れるだろうか。
  8)小学校1,2年の理科と社会を廃止する代わりに新設された教科。「自分と社会とのかかわり」「自分と自然との関わり」などを考えさせる目的で、人々の接し方、公共物の利用、自然観察、生活技能などを学ぶ。
  9)1993年2月、旧文部省が全国の中学校に業者テストを行うことを禁止する通知を出す。テスト結果が中学校から私立高校に提供されることで、私立高校では入試前から偏差値の高い生徒の青田買いが行われ批判されていた。
  10)選択履修により普通教育と専門教育の両方を総合的に施す学科。
  11)文部科学省におかれる審議会で文部科学大臣の諮問に応じて識者が意見を述べる。
  12)習熟度別授業が象徴的。生活科を発展させる形で、変化の激しい時代を「生きる力」の育成を掲げた「総合的な学習の時間」が小中高校を通じて新設。完全学校週5日制。
  13)1996年の中央教育審議会答申の中で「ゆとり」とともに掲げられた重要なテーマ。「自ら学び、考え、主体的に判断する資質や能力であり、豊かな人間性」を指す。
  14)遠山敦子文部科学相が、宿題や教科書以上の内容の補修を奨励し、「ゆとり重視」から「学力向上」への方針転換を訴える。この都市の4月から新学習指導要領による学習内容の3割削減と学校週5日制の導入が決まっており、学力低下を懸念する声に配慮したため。
  15)
1999年に「分数ができない大学生」が発売され、大学生の理数系科目の学力低下が取り上げられた。2000年のPISAで日本は数学と科学では世界1位、2位だったが、読解力は8位。2003年では数学が6位、読解が14位となったことで論争が生じた。しかし、詰め込み教育の学力を測るTIMMSと、生きる力・考える力を測るPISAのコンセプトの違いを踏まえて議論すべきという意見もある。
  16)
OECD(経済協力開発機構)が世界各国の15歳の子どもを対象に実施する試験。読解力、数学的応用力などが測られ、2000年から3年ごとに実施される。それ以前はIEA(国際教育到達度評価学会)が実施する「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」が指標となっていた。IEAの順位は80年代まで日本がトップクラスにあったが、90年代末に8位に転落。PISA2006では更なる点数低下が問題となったが、TIMSS2007で下げ止まり、PISA2009で学力の上昇が示された。
  17)
4月24日に小学校6年生と中学3年生を対象に、国語、算数・数学の二教科で実施。1964年以来43年ぶり。62億円の税金が投入された。B問題はPISA型学力に対応したものと位置づけられる。
  18)
教育改革を政策の重要課題とする安部晋三首相により、2006年10月に設置。首相を含む3人の閣僚と17人の民間有識者で構成される。授業時間の10%増や教科書を厚くすることを打ち出した。この後、教員免許法、地方教育行政法、学校教育法の関連三法案が国会で可決された。
  19)
画一主義を改めないまま、すべての子どもに一律にゆとりを与えている。学習についていけない子どもは、詰め込みの進度ではなく、ゆとりを持った理解を重視する必要がある。一方で、もっと深く学んだり様々な学習方法に挑戦するために柔軟にカリキュラムを変える必要がある。
  20)
新しい学力観は「生きる力」という言葉で「強い個人」を想定しているが、学ぶ意欲はどの生徒にも生じるのだろうか。苅谷(2001,p.18)は学習意欲の格差について、誰もを勉強に駆り立てるプレッシャーを弱めることで、潜在化していた階層の影響が拡大したと言う。また、「だれでもがんばれば」と、努力の程度を個人の自由意志の問題とみなすことが階層の影響を見えにくくしたという(p.159)。苅谷の主張は、当時の小泉改革のもとで主張された自己責任論に対するアンチテーゼと位置づけられる。
  21)
櫻井(2005,p.18)は、ゆとり教育の理念は一部のエリートのみが実現できる教育という。
  22)
小学校で278時間、中学で105時間。小学校では47都道府県の名称や位置、台形の面積の公式、縄文時代、中学でイオンなどの内容が追加される。2011年から小学校で使われる教科書は25~43%ページ数が増えた。
  23)
ゆとり教育を支持する寺脇研は、大人全員が何かの役割を果たせているという状態を作り、その役割を果たすことで収入と満足感を得るという社会を理想としている。(寺脇2007 p.41)


テスト問題:ゆとり教育とはどのような教育であるか、どのような点が批判されているかを述べてください。その上で、自身の体験をもとに、ゆとり教育に関する自身の意見を述べてください。

回答例:ゆとり教育とは、詰め込み式の教育の批判から主として1992年度から施行された新学力観 に基づく教育を指す。その批判として、学習意欲格差が生じることや、基礎学力の定着がおろそかになるというものがある。(以下、自身の体験に基づく意見)

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